2026.11.06

雑誌【セラピスト】掲載|Case 2「殿部・腰部」講義(前編)

こんにちは。MTI(マッサージセラピー・インスティテュート)学長の國分利江子です。

今回から2回に分けて、『セラピスト』誌2020年6月号の連載「case study 2」で取り上げた事例を解説します。誌面では説明しきれなかった内容も加えながら、さまざまな角度から症状について学んでいただける構成にしました。お手元にこの号がある方は、記事と見比べながら読んでいただくと、より理解が深まると思います。

前編では、クライアントの主訴と状況、そして筋解剖学から見えてきた痛みの原因についてお話しします。

ぜひ動画も併せてご覧ください。

クライアントの主訴

このケースは、私の生徒さんが担当して結果を出した施術の実例です。クライアントご自身もセラピストで、普段から立ち仕事が続き、もともと身体が疲れやすく、腰部にも疲れが出やすい方でした。

5年前に出産され、仕事に復帰してから殿部と腰部に痛みが出るようになりました。鍼、整体、オイルマッサージなどいろいろな施術を受けてこられましたが、受けたときは気持ちがよくても、根本的な改善にはなかなか至らなかったそうです。

そのクライアントが今回の施術で大きな成果を実感され、「オイルマッサージでここまで機能改善できるのですね」と喜んでくださいました。

痛みの背景にある生活状況

なぜ殿部に痛みが出るようになったのか。考えてみると、出産後あまり休みをとらずに仕事に復帰し、セラピストとして立ち仕事の多い日々を送っていたことがわかりました。

同時に、家事や育児の負担も大きくなっていました。赤ちゃんが生まれると、洗濯や掃除の量も増えます。とても身体を休められる状況ではなかったのです。

出産で一度緩んだ骨盤周りが元の位置に戻りきらないうちに、休みなく仕事を再開し、家庭での作業も増えた。そのため周囲の筋肉が硬くなってしまったことが、今回の殿部の痛みの原因ではないかと考えられました。

姿勢の特徴

このクライアントの姿勢には、次のような特徴が見られました。

まず、骨盤が後ろに倒れる「骨盤の後傾」です。あわせて股関節と膝関節が屈曲した状態になっていました。

正面から見ると、大腿部、つまり股関節が基本の位置よりも外旋し、外側に開いていました。この位置では股関節と膝がさらに屈曲しやすくなり、下半身が常に緩んで安定しない状態になります。

その上に重たい上半身が乗っているため、殿部や大腿部にかかる負担がいっそう大きくなっていました。

姿勢を変化させている3つの筋肉

この姿勢をつくり出している主な筋肉は、大殿筋、ハムストリングス、梨状筋の3つです。いずれも身体の背面にあります。

大殿筋

大殿筋は腸骨稜から仙骨、仙腸関節にかけて起始し、筋腹が大きく広がりながら腸脛靭帯と殿筋粗面に停止します。お尻の形をつくっている筋肉です。

大殿筋が緊張すると、筋肉がキュッと中心に集まります。これが両側で起こると骨盤が後傾し、さらに大腿骨が後ろ側に引っ張られるため、股関節が外旋してしまいます。

ハムストリングス

ハムストリングスは坐骨結節から起始し、筋腹が内側の半腱様筋・半膜様筋と外側の大腿二頭筋の二方向に分かれて、膝関節を越えて停止します。

この筋肉の緊張によって膝の屈曲が起こります。さらに坐骨結節を下に引っ張るため、骨盤の後傾がより強調されます。

梨状筋

大殿筋の下にある梨状筋は小さな筋肉ですが、坐骨神経痛の原因にもなる重要な筋肉です。仙骨と腸骨のライン、つまり仙腸関節のあたりから後ろ側を通り、大腿骨の大転子に停止しています。梨状筋が緊張すると、股関節を外旋させる動きが強まります。

痛みが悪循環に陥るしくみ

最初に痛みのきっかけをつくったのは、おそらく梨状筋が緊張したまま硬くなってしまったことだと考えられます。

そこで痛みが起きても、セラピストとしての立ち仕事と家事が続きました。その結果、大殿筋やハムストリングス、さらにその周りの筋肉も緊張しはじめ、痛みがひどくなっていきました。

3つの筋肉の緊張が取れないまま働き続けることで、さらに痛みが増していく。この悪循環が、クライアントの主訴の原因であると推測されました。

まとめ

今回のケースでは、産後に十分な休息をとれないまま仕事と家事・育児が重なり、緩んだ骨盤周りが元に戻りきらなかったことが、殿部の痛みの背景にありました。姿勢を丁寧に観察すると、骨盤の後傾、股関節と膝関節の屈曲、股関節の外旋という特徴が見えてきます。そこから、大殿筋、ハムストリングス、梨状筋という3つの筋肉が浮かび上がりました。

痛みのある場所だけを見るのではなく、姿勢と筋解剖学の知識から原因となる筋肉を絞り込み、痛みの悪循環のしくみを理解すること。これが根本的な改善への第一歩です。後編では、この見立てをもとにした具体的な施術プランをご紹介します。


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私が学長を務めるMTI(マッサージセラピー・インスティテュート)では、アメリカのニューヨークにあるスウェディッシュ・インスティテュートで学んだマッサージセラピーを教えています。これは運動療法から発展して機能改善を目的としたアメリカ発のオイルマッサージです。このスクールには、不調の原因を理解し、お客様一人一人に合わせた質の高い施術をしたいという方が入学されています。

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