こんにちは。MTI(マッサージセラピー・インスティテュート)学長の國分利江子です。
今回は、セラピスト誌2020年6月号「case1 首・肩凝り」で紹介した施術の後編です。前編では、乳様突起の停止部へのアプローチとボディメカニクスの重要性についてお話ししました。
後編では、緩んできた停止部から胸鎖乳突筋全体へと施術を広げ、外側からのアプローチ、前側からのアプローチ、そしてスクウィージングやシェイキングまで、一連の流れを解説します。
ぜひ動画も併せてご覧ください。
乳様突起の停止部から胸鎖乳突筋全体へ
前編では、胸鎖乳突筋の停止部である耳の後ろの乳様突起にアプローチしました。コンプレッションとストリッピングを続けていると、この乳様突起の停止部が少しずつ緩んできます。
緩んできたら、もう一度乳様突起の停止部に指を当て、今度は柔らかく滑らせながら圧をかけていきます。緩んだところを、筋肉全体に染み込ませるような感覚です。
すると、最初に触れたときとは、乳様突起の付着部の形や筋肉の形が違って感じられるはずです。最初は骨に付着しているところまでピンと張っている感じがありましたが、今は柔らかく指が入るようになっています。その先にある、胸鎖乳突筋の中ほどの緊張も取れるようになってきました。
後ろ側(外側部)からのアプローチ
ここで効果的なのが、まず外側部からアプローチする方法です。
前編では、乳様突起のところで胸鎖乳突筋を前側から捉えるとお伝えしました。今度は、拇指のトップで胸鎖乳突筋の後ろ側から突き上げるような形で筋腹を捉えます。そして、胸鎖乳突筋の際をずっと辿っていきます。このとき、しっかりと圧が入っています。
鎖骨の付着部まで来たら、筋腹をストレッチしながら圧をかけるような感覚で、少し圧をかけます。この後ろ側から胸鎖乳突筋を緩める作業を、何回か繰り返してみましょう。
筋腹全体に圧を届ける
次は筋腹です。隆々とした幅広い胸鎖乳突筋の、まずは鎖骨に付着している部分。そしてもう少し前の、胸骨・胸骨柄に付着している部分。この筋腹全体にしっかりと圧を届けながら、胸鎖乳突筋のどこに緊張があるのかを探しつつ作業していきましょう。
前側からのアプローチ――ボディメカニクスと筋解剖学が安心の土台
続いて、とても役に立つのが前側からのアプローチです。
ただ、喉の前側にしっかり圧を入れて筋肉を緩めるという作業は、多くの方にとって経験のないものだと思います。少し緊張してしまいますよね。
そこで重要になるのが2つのことです。ひとつは、しっかりとしたボディメカニクスで、身体に力みを入れずに正しい角度・正しいポジションを確保すること。もうひとつは、筋解剖学で場所をきちんと把握していること。場所を知っているからこそ、安心して施術ができるのです。
拠り所になるのが、胸鎖乳突筋の付着部の一番前の部分です。ここから胸鎖乳突筋を捉え、拇指を少し下ろすような形で角度を決めます。
このとき、拇指で正しい位置を探しているうちに、肩が上がってしまうことがあります。肩が上がっていると、腕や指に力みが入ってしまいます。正しい位置を拇指で見つけたら、次に自分のボディメカニクスを最も正しい位置に持っていきましょう。指は胸鎖乳突筋の前の部分を捉えたままなので、そのままボディメカニクスを正しく使いながら圧を運んでいきます。
途中で、胸鎖乳突筋の胸骨頭から指が外れてしまうこともあります。その場合、2回目はそうならないよう、繊細に指を運びます。
2回目は圧を先ほどの1.3倍ぐらいに増やしました。なぜなら、胸骨頭の筋腹のちょうど真ん中あたりに緊張があり、それが筋膜などの他の組織と少し癒着を起こしている感じがあったからです。慎重に、繊細に指を使いながらも、しっかりと力強く圧を入れていきます。
こうして圧を進めていきますが、この圧も足の裏から作られています。動かしているのは指と腕だけではありません。全身が連動して動きながら、身体全体でこの圧を運んでいるのです。
喉元・胸骨柄付着部へのアプローチ
次は、クライアントの喉元、胸骨柄の付着部です。ここまでの施術で、胸骨柄の付着部に圧を入れることにもうクライアントは慣れてきているので、少しアクティブに進めます。
緊張のある部分を指で正確に探しながら、組織と組織の間、つまり胸鎖乳突筋の前の線維の下に指を潜り込ませるような感覚で圧を入れていきます。かなり深く指が入っていますが、慎重さは忘れずに。
一度しっかりと圧を入れたら、その後に柔らかいストロークをミルフィーユのように挟んでいくと、クライアントは受け取りやすくなると思います。
スクウィージングとシェイキング
次に行えるのがスクウィージングです。胸鎖乳突筋の筋腹全体を指で挟んでスクウィーズします。挟んだまま圧をかけ続け、待っているだけでも十分な効果があります。
喉元には、肩の緊張などとは違う、独特な緊張があります。しっかりと掴んだら、少し揺らしてシェイキングを加えます。
このとき注意したいのが、掴み方です。掴み方が中途半端だと、前側の筋腹がつるんと外れてしまい、鎖骨頭側の筋腹だけを持っている状態になることがあります。胸骨頭側と鎖骨頭側の両方をしっかり掴むことで、心地よさが増します。中途半端に掴まれると、クライアントにとっては少し嫌な感覚になってしまうのです。
あえてスクウィーズしながら外していく手技もありますが、慣れるまでは基本的にしっかりと掴むことを意識してください。しっかり掴まないと、シェイキングしたときに外れてしまいます。拇指の頭と人差し指の側面を使って、しっかり掴んでシェイキングしましょう。
付着部へのコンプレッションと仕上げのエフルラージュ
シェイキングの後は、再び少し長めのストロークを行います。そのストロークの流れで、鎖骨の付着部に対してしっかりと圧を入れ、コンプレッションします。
続いて、胸骨柄の付着部で起始部を捉え、しっかりとコンプレッションします。ここでは骨を利用します。骨は動きませんよね。そこに圧をかけることで、付着部が少しストレッチされながら圧を受け取ることになります。
こうして全体を緩めたら、最後にもう一度オイルを使い、滑る心地よさを感じていただけるエフルラージュで仕上げます。
濃厚な料理を食べた後に、最後にジェラートを口に含むとさっぱりして、ほっとしますよね。ディープで繊細な作業の後のエフルラージュは、まさにそのような役割です。私はディープな施術を行った後には、少しオイルをつけて爽やかなエフルラージュで締めくくるようにしています。
まとめ
後編では、緩んできた停止部から胸鎖乳突筋全体へと施術を広げていく流れを解説しました。後ろ側(外側部)からのアプローチ、筋腹全体への圧、そして前側からのアプローチへと段階的に進めることで、クライアントは喉元への深い圧も安心して受け取れるようになります。
喉の前側という、多くのセラピストにとって慣れない部位を施術するときに支えとなるのは、正しいボディメカニクスと、筋解剖学に基づいた確かな位置の把握です。さらに、スクウィージングとシェイキングでは両側の筋腹をしっかり掴むこと、深い作業の後には爽やかなエフルラージュで締めくくることで、施術全体の心地よさが大きく変わります。胸鎖乳突筋への丁寧なアプローチは、首こり・肩こりに悩むクライアントにとって大きな助けになるはずです。
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私が学長を務めるMTI(マッサージセラピー・インスティテュート)では、アメリカのニューヨークにあるスウェディッシュ・インスティテュートで学んだマッサージセラピーを教えています。これは運動療法から発展して機能改善を目的としたアメリカ発のオイルマッサージです。このスクールには、不調の原因を理解し、お客様一人一人に合わせた質の高い施術をしたいという方が入学されています。
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