2026.10.09

セラピスト誌2020年06号 case1「首・肩凝り」施術編【前編】

こんにちは。MTI(マッサージセラピー・インスティテュート)学長の國分利江子です。

今回は、セラピスト誌2020年6月号「case1 首・肩凝り」で紹介した施術を、前編・後編に分けて詳しく解説します。前編では、まず胸鎖乳突筋(SCM)の位置の確認と、斜角筋との位置関係を見ていきます。そのうえで、施術の準備から乳様突起の停止部へのアプローチまでをお伝えします。あわせて、深い圧を心地よく届けるためのボディメカニクスについてもお話しします。

ぜひ動画も併せてご覧ください。

胸鎖乳突筋の位置を確認する

まず、クライアントに仰向けになっていただき、首の曲線を少し取り戻します。

この姿勢で胸鎖乳突筋を探すときの手がかりになるのが、耳の後ろ側にある硬い骨です。鍾乳洞の鍾乳石のように垂れ下がっているこの骨が乳様突起で、ここが胸鎖乳突筋の停止部です。

仰向けになると、乳様突起から、身体の中心にある胸骨柄へと走るラインがはっきりと見えます。そこから二等辺三角形のような形で外側に広がり、鎖骨の内側1/3にも付着部があります。仰向けの状態では、胸鎖乳突筋の後ろ側の境界線もはっきりと見て取れます。

胸鎖乳突筋と斜角筋の位置関係

次に、胸鎖乳突筋に斜角筋がどのように重なっているのかを簡単にご説明します。斜角筋は胸鎖乳突筋の下にあります。斜角筋の詳しい解説は、また別の機会にしっかりとお伝えしたいと思います。

耳道、つまり耳の穴から、立っている姿勢であれば真下へ、マッサージテーブルに仰向けになっている状態であれば横方向へ移動していくと、頸椎があります。頸椎はまっすぐに連なっていて、その横側に羽のように広がっているのが横突起です。この横突起が、斜角筋の付着部のひとつです。

斜角筋は、前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋の3つに分かれています。横突起から下へと下りていき、鎖骨の下を通って、第1肋骨と第2肋骨に停止しています。

前・中・後斜角筋の線維は、横突起に沿ってまっすぐに重なっています。横突起の幅から少し前、少し後ろへと厚みを持って張り出しているような位置にあるのが斜角筋です。ボリュームは小さいものの、首や喉の外側部の壁を作っている筋肉のひとつだと考えると分かりやすいと思います。

実際、斜角筋は非常に緊張しやすい筋肉です。キュッと緊張して硬くなると、首の外側部の形を作っているような印象にもなります。斜角筋の施術は中級〜上級の内容になりますので、今回はまず、皆さんもよくご存じの胸鎖乳突筋で、どのくらい施術力をアップできるかをお見せしたいと思います。

オイルの準備とポジショニング

私は少量のオイルを手に取り、特に人差し指と拇指に軽くつけます。

クライアントの首の曲線を取り戻し、そのまま首を少しだけ傾けた位置にします。反対側の手では側頭部を軽くサポートします。これは、首がそれ以上倒れないように頭部を安定させるためです。

次に、胸骨柄の付着部のところから、人差し指と中指で軽くオイルをつけていきます。このとき、オイルをつけすぎるとツルツルと滑ってしまい、圧がかかりにくくなるので注意してください。

一度オイルをよく染み込ませたら、余分なオイルは拭き取ります。クライアントの首に必要な量のオイルがしっかり染み込んでいれば、それで十分です。

拇指のストリッピングとエフルラージュでクライアントに安心を

まずはエフルラージュの代わりに、拇指で軽いストリッピングを行います。これだけでクライアントはとても安心します。指の力を抜いて、四指で全体を軽くエフルラージュする動きも混ぜると、さらに安心していただけると思います。

この後、喉の部分にかなり強い圧、正確に言えば「深い圧」を入れていきます。だからこそ、クライアントがリラックスしていることがとても重要なのです。

乳様突起の停止部へのコンプレッションとストリッピング

最初は乳様突起の作業から始めると、クライアントは安心できると思います。

まず、乳様突起の停止部に拇指をしっかり滑らせます。乳様突起から滑り降りるような感覚で、付着部を捉えます。

付着部を捉えたら、そのまま拇指のトップを筋腹に対して90°に保つくらいの感覚で、コンプレッションを行います。ここでいう「指のトップ」とは指先のことです。指腹ではありません。指腹では滑ってしまい、圧が入らないのです。指先でしっかり圧を入れながらも、爪は立てないようにしてください。

そして、指に力が入らないようにすることも大切です。ボディメカニクスを使って、指をそこに沈ませていきます。

しばらくコンプレッションを続け、クライアントが一呼吸ついた感じになったら、ゆっくりと拇指を滑らせてストリッピングします。ここではまず、短いストリッピングが適しています。

乳様突起に付着部を持つこの部分は、実はとても緊張しやすい場所です。今回は首こり・肩こりをベースに解説していますが、この部分の緊張は頭痛を引き起こしたり、他の筋肉の緊張とともに頭痛の一因になったりもします。

ですから、ゆっくりしっかりと圧をかけ、緊張している胸鎖乳突筋の厚みをきちんと感じながら捉えてください。これを停止部全体に行います。前側を行う場合は指の角度を少し変え、前側から圧を入れるような感覚で、指をしっかりと使ってください。

圧を作っているのは「足の裏」――ボディメカニクスの重要性

このとき、私がいつも面白いと感じるのは、圧が出ているのは拇指の指先だけなのに、圧を作っているのは実は私の身体の足の裏だということです。

指先にしっかりと圧を届けるために、私の足の裏は床にぴったりと吸いつき、しっかり床を押しています。さらに腹部と腰部も、腹筋と背筋を使って安定させた状態で、拇指に圧を集中させているのです。

これを指だけで圧を作ろうとすると、指に力が入り、とても嫌な雑味のある強い圧になってしまいます。

「痛いディープティシュー」というイメージはなぜ生まれたのか

多くのセラピストの方が、ボディメカニクス、あるいは私が開発し詳細に体系化したBMSメカニクスをご存じないまま、指の力で圧を作ろうとしてしまいます。首に限らず、肩や腰、背中でも、指や腕の力で力んで圧を作ってしまうのです。

その結果、日本では「ディープティシューや強い圧は、ちょっと痛くて嫌だよね」というイメージが広まってしまったのではないかと思います。「ソフトタッチのほうがいい」とおっしゃる日本のセラピストの方の多くは、もしかすると技術的にあまり良くない強いディープティシューを体験されたのではないでしょうか。

本当に深く、しっかりとしたディープティシューは、筋肉の中に大きく食い込んでいても、指にはまったく力が入っていません。そして受け手の方はとてもリラックスして、心地よくその圧を受け取ることができるのです。

筋肉の緊張の中を「探索」する

圧は、筋肉の緊張の表面をツルツルと滑らせるのではありません。初めから筋肉の緊張の中に潜り込み、指を緊張させないまま、その緊張の中を横に移動していく。これがプロの技術です。

まるで森の中を探索するように、筋線維の一つひとつの中に入りながら圧を移動させていきます。施術をしているとき、私の拇指はさながら「胸鎖乳突筋の探検家」。森の中を散策しているような気分になっています。

まとめ

前編では、乳様突起や胸骨柄を手がかりに胸鎖乳突筋の位置を確認し、その下にある斜角筋との位置関係を整理しました。そのうえで、オイルの準備とポジショニング、乳様突起の停止部へのコンプレッションとストリッピングについて解説しました。深い圧を入れる前に、軽いストリッピングやエフルラージュでクライアントにリラックスしていただくことが、施術全体の土台になります。

また、指先から出る圧を実際に作っているのは足の裏であり、腹部と腰部の安定です。指の力で圧を作るのではなく、身体全体を使ったボディメカニクスで圧を届けることで、深くても心地よいディープティシューが可能になります。

後編では、胸鎖乳突筋の筋腹へのアプローチ、前側からのアプローチ、スクウィージングとシェイキングについてお伝えします。


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私が学長を務めるMTI(マッサージセラピー・インスティテュート)では、アメリカのニューヨークにあるスウェディッシュ・インスティテュートで学んだマッサージセラピーを教えています。これは運動療法から発展して機能改善を目的としたアメリカ発のオイルマッサージです。このスクールには、不調の原因を理解し、お客様一人一人に合わせた質の高い施術をしたいという方が入学されています。

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